Spice Factory
問題に向き合うとき、人は「分析する・理解する・構想する」のどれを起点にしやすいかが違います。その重心を三角形の上に置くと、7つのタイプに分かれます。優劣ではなく、自然に使いやすい考え方の違いです。
Foundations
なぜ測るのか。何にもとづき、どう整理しているか。
AIで数分のうちにデザインや文章ができる時代に、希少なのは「描く」力ではなく、何を作るべきかをとらえ直し、方向を決める「考える」力です。生成AIが引き受けるのは案を出す側で、問題を問い直し、出てきたものを評価し、方向づけるのは人の役割として残ります。この「デザイン的な考え方」を、ふだんの行動から可視化するのが本診断です。
デザイン思考には、大きく2つの流れがあります。ひとつは2008年以降にビジネスで広まった「共感してプロトタイプを作る」5ステップ型(デザイン思考2)。もうひとつは、デザイナーが実際にどう問題を捉えて解いているかを事例研究で積み上げてきた学術的な流れ(designerly ways of knowing、デザイン思考1)です。本診断は後者に立ちます。
起点は、デザイン研究者 Nigel Cross が Bruce Archer から受け継いで示した「デザイン固有の知の様式」。デザインを、科学・人文学と並ぶ第三の知の文化として捉える考え方です。ここに、専門デザイナーが常駐しない組織でもデザイン的な力をどう発揮するかを扱うデザイン・イネーブルメント研究(Spice Factory)を重ねています。
診断は2つの層でできています。どの方向から考えるか(重心)と、デザイン的にどれだけ考え抜けているか(発揮度)です。
科学・人文学・デザインのどこに重心があるか。三角形の上の位置として表し、7つのタイプに整理します。
デザイン的な力を、どれだけ発揮できているか。作りながら問題を捉え直す・枠組みを問い直す力(認知)、図やスケッチで考え・揃え・決める力(表象操作)を直接測り、デザインへの構え(態度)は DAM と連携して補います。レーダーで表します。
①は「どの方向で考えるか(重心)」、②は「デザイン的にどれだけ考え抜けているか(発揮度)」。この後、①の三角形と7タイプ、続いて②の力を順に見ていきます。
① Seven Types
科学・人文学・デザインは、認識(何を知識とみなすか)・認知(どう考えるか)・表象操作(図でどう考えるか)の、どのレベルでも型が違います。デザインはどのレベルでも「未来・未完成・合意が事前に定まらない」方向に向かう、第三の様式です。
| 科学(分析・S) | 人文学(理解・H) | デザイン(構想・D) | |
|---|---|---|---|
| 認識 | 合意を積み上げる(再現性・法則定立) | 単一の正解を目指さない(解釈・個性記述) | 合意なき選択(まだない状態の構想) |
| 認知 | 仮説と実験を往復 | 部分と全体を往復(解釈) | 問題と解を往復(共進化) |
| 表象操作 | 固定して運ぶ(inscription・データ可視化) | 読む・図像化する(精読・遠読) | 未完成のまま描いて探索(スケッチ) |
認知はどれも「2項の往復」だが、往復する対が違う(仮説⇄実験/部分⇄全体/問題⇄解)。三文化=Cross (1982) 本文/Archer (1979)。認知=Klahr & Dunbar (1988)・Dorst & Cross (2001)、表象操作=Latour (1986)・Goldschmidt (1991)、合意の階層=Fanelli & Glänzel (2013) 本文、解釈学=Gadamer (1960)、遠読=Moretti (2013)。
本診断は、この3レベルの「デザイン側」を測ります。まず重心(認識レベル)=あなたが科学・人文学・デザインのどこに立つかを、7つのタイプで。3つの頂点(ひとつの重心が強い)、3つの辺(ふたつを往復する)、中心(三つが均衡する)。認知・表象操作の発揮度は、続く②で測ります。
3つのうち、ひとつの重心がはっきり強いタイプ。問題への最初の入り方が、その軸に偏ります。
データと因果から、問題の構造を解き明かすことを起点にする。何が起きているかを正確に捉えてから動く。
当事者の意味や価値観を理解することを起点にする。問題そのものを整理し、解釈してから動く。
まず形にして、作りながら方向を見出す。手を動かして試すことから始める。
3つのうち、ふたつの重心が高く、その間を行き来するタイプ。状況に応じて2つの軸を使い分けます。
データから見えたパターンをもとに方向を描く。分析を構想に接続する。
当事者の意味の理解を、形に接続する。理解したことを一緒に作る共創へつなぐ。
事実と意味を往復する。データと当事者の理解を突き合わせて確かめる。
3つの重心がほぼ均衡するタイプ。どの入り方も取れる一方、ひとつに突出した尖りは出にくくなります。
分析・理解・構想を、場面に応じて使い分ける。どれかに偏らず、状況に合わせて重心を移せる。
② Designerly Capabilities
①の重心(認識レベル)が「どの方向から考えるか」なら、②は「デザイン的にどれだけ考え抜けているか」。認知と表象操作の2レベルを、ふだんの行動の頻度として直接測ります(態度は外部尺度 DAM と連携。後述)。各カードをクリックすると詳細が開きます。
問題と解をどう行き来するか。既存の枠組みを使いこなすか、枠組み自体を問い直すか。3つの認知モードで測ります。
手を動かす中で問題の見え方が変わり、方向を修正できる。問題を固定してから解くのではなく、作ることで問題そのものを理解し直す。
既存の方法・原則・ガイドラインの中で、的確に問題を解く。確立されたやり方を信頼して使いこなす。
既存の方法が効かないとき、枠組み自体を疑い、組み替えて新しい解き方をつくる。
可視化は1つの行為ではなく、3つのモードがあります。いつどれを使うかの判断が要。AI時代は「描く」自体はAIが担い、残るのは「どのモードを使い、何を残す/固定するか」の判断です。
不完全なまま描いて、まだない像や問いを生み出す。完成させず、次の発想を誘発する。
描いてみせることで立場の違う人を巻き込み、同じ図への異なる読みを持ち寄って交渉する。
図解・ダッシュボード・ガイドラインとして固定し、組織に明確につたえる。情報インタラクションデザインの領域。
デザインへの構え(態度)は、本診断で作り直さず、既存尺度 DAM(Design Attitude Measurement) と連携して測ります。DAM は実験主義・楽観主義・可視化への信頼・協調性・共感の5因子で構成されます。態度は「そう思うか」という心理特性で、本診断が直接測る認知・表象操作(普段そうしているか、という行動の様式)に先立つ“土台”の層です。本診断はこの土台を作り直さず、DAM と連携して補います。
「新しい可能性に心を開き、常に新たな解を提案することに意欲的」(Brown 2019)。まず試し、結果を見て確かめに行く構え。
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「状況がきっと今よりよくなる」という信念(Brown 2019)。不確実さに前向きに向き合うことを支える。
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描いてみせることで考えが前に進むと信じる構え。「視覚化して考える能力」(Michlewski 2015)。
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多様な専門・立場のチームに溶け込み、各人の個性・専門性を受け入れて進める構え(Schweitzer et al. 2015)。
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「他者の目を通して体験をとらえ、人々がその行動を取る理由を理解する」(Kelley & Kelley 2013)。
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DAM=八重樫文ほか (2022)「企業のデザイン力を測定するためのツールの開発」デザイン科学研究 1(5因子は Ando et al. 2020 の探索的因子分析による)。各因子の逐語定義は、安藤拓生 (2023)「創造的問題解決としてのデザインに必要な能力に関する理論的整理」デザイン科学研究 2 の能力整理に基づく。本診断は態度を自前で測らず、DAM と連携して補完する。
①の重心(認識)=どの文化に立つか、②の認知・表象操作=デザイン的にどれだけ考え抜けているか、を直接測り、態度は DAM と連携して補います。これらを合わせて、強み・弱みのプロファイルになります。
③ Enabling
①と②は「あなた自身がどう問題に向き合うか」を見てきました。けれど仕事の多くは一人で完結しません。デザイン・イネーブルメント(Design Enablement)は、専門のデザイナーが常駐しない組織でも、メンバー自身がデザイン的に考え動けるよう支える関わりです。自分が問い直せることと、相手の問い直しをひきだせることは別の力で、後者がここでの「ひきだす力」です。
ひきだす力の中心にあるのは、相手への3つの関わり方です。一方的に教えるのではなく、相手の中から動きを起こします。各カードをクリックすると詳細が開きます。
相手の中にある意図を、本人が言葉にできるよう問いを設計する。自分の答えを先に出さず、相手から問いが立つのを助ける。
デザインの知識や原則を、自分の語彙のままでなく相手の業務の言葉に翻訳して渡す。渡すタイミングも、相手の準備に合わせて調整する。
自分の判断のプロセスを、やりながら言語化してみせる。一緒に手を動かし、言葉だけでは渡らない感覚を共有する。
ひきだす・つたえる・みせる の3機能を、「誰が担うか」と「どんな問題か」の2軸で整理すると、全体像が見えます。ゴールは、あなたが同席しなくても3機能が働く状態(下段=enabling context)です。
| 枠の中で解く(Application) | 枠を作り直す(Discovery) | |
|---|---|---|
| 人が同席して Designer-Led | その場で、決まった型に沿って3機能を回す。フィードバックがその場で閉じる。 | その場で、枠そのものを問い直す手伝いをする。 |
| 場・仕組みが担う Environment-Led | 共通言語やデザインシステムが、型に沿った判断を肩代わりする。 | 場が「本当にこの枠でいいか」を問い直す余地を残す。一番むずかしい。 |
下段「場・仕組みが担う」=あなたが同席しなくても回る状態=enabling context(イネーブリング・コンテキスト)。デザイン・イネーブルメント研究(Spice Factory)にもとづく。
3つの方向機能を成り立たせるのが、この3つです。とくに「場を作る」は、あなたが同席しなくても機能が働くようにする enabling context(場・仕組み)そのもの。「切り替えを促す」は、相手を既存の枠(application)から枠を問い直す(discovery)方へ移す関わりです。
相手が安心して頼れる関係をつくる。言行が一致し、判断根拠を見える形で示し、相手が「自分で決めた」と感じられる余地を残す。
共通の言葉、判断の記録、自律して決められる仕組みを整える。学びが個人に閉じず、チームの知識として残る場をつくる。
相手が既存のやり方で詰まっていることに先に気づき、問いの立て方を変える手伝いをする。相手が自律したら、意図的に手を引く。
D × E
デザイン・イネーブルメントは、自分が問いを立て直せること(D)と、相手の問い直しをひきだせること(E)が揃って初めて成立します。両方が揃うと、相手が持つ既存の枠を越えて、相手と「共に」解決策を導ける。この2つを掛け合わせると、4つの状態が見えます。
自分は問い直せる。けれど相手には「説明」する方向に力を使っていないか。説明がうまいのに前に進まないのは、説明力の問題ではなく、相手からひきだす力が測られてこなかっただけ。
自分で問い直せるうえに、相手の問い直しもひきだせる。相手の問題定義に伴走しながら、解がはまる形を一緒につくれる。
相手の既存の枠の中で、解を比較される構造に入りやすい。まず相手が何を「当たり前」にしているかをひきだすところから。
ひきだすのは得意。ただひきだした先で枠を組み直すところで止まりやすい。「これは何の問題か」と問い直す一手を足すと提案に変わる。
縦軸=自分が問い直す力(D)/横軸=相手の問い直しをひきだす力(E)。
技術や案を説明して、相手の判断を待つ。決まった土俵で比較され、値段で競うことになる。やらされ仕事は定着しない。
相手の問題定義の段階から関われる。比較される土俵に乗らない。相手が「自分で決めた」から、続くし広がる。あなたがいなくても回る。
相手の多くは、既存の枠組みの中で発注します。既存の枠で発注する人は、既存の解しか買えません。新しい技術や考え方の置き場所が、相手の頭の中にまだ無いからです。
だから、相手の問い直し(枠組みの組み替え)を手伝うこと自体が、新しい価値の置き場所をつくる仕事になります。フィットは「探して見つける」ものではなく、相手の問題定義と自分の解が照らし合いながら、一緒に立ち上がるものです。
相手と共に解けると、帰結は相手によって変わります。自分たちなら新規事業の構想に、顧客となら共同事業や新しい市場の創出に、社内なら既存の組織・業務の変革につながります。
ここには境界があります。相手の問いを自分の解の方へ誘導したら、それは形を変えた売り込みです。ひきだすとは、相手自身から問いが立つことを引き受けること。結果として自分にフィットしない結論になることもあり得て、それを許容できることが、信頼の担保になります。
How to Read
Next Step
診断は出発点です。個人で力を伸ばすか、組織に仕組みとして根づかせるか。2つの支援があります。